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厚生労働省もいよいよ 悪徳美容クリニックへ監視を!
厚生労働省は6月27日、「美容医療の適切な実施に関する検討会」の第1回会議を開催した。違法・不適切な事例に対する対応や、質の高い医療機関が患者に選ばれるための取り組みなど、美容医療の適切な実施に向けた検討が目的だ。
 これは現状の美容医療が様々な課題を抱える裏返しでもあり、会議では「悪貨が良貨を駆逐することがないようにしなければならない」(日本医師会常任理事の宮川政昭氏)、「問題は医師のモラル。ここを何とかしない限りは多分、前には進まない。モラルを逸脱してるドクターは、先生方が想像する以上に増えていると思う」(共立美容外科理事長の久次米秋人氏)など、美容医療を担う当事者も含め、構成員から手厳しい発言が相次いだ。
 検討会発足の背景には、美容医療を行う医師・医療機関や、オンライン診療もありサービスへのアクセスが容易になり利用件数の増加の一方、利用者による相談件数や危害事例も増えている事情がある。診療所において主に「美容外科」に従事する医師は増加の一途で、20代、30代の医師が多い。美容医療に関する相談のうち皮膚障害や熱傷、消化器障害など「危害」に該当する件数が増えている。
 一口に美容医療と言っても、幅広い。本検討会では「美容目的」の「医行為」をスコープとし、▽勧誘・説明・契約、▽診療の実施――という2つの側面から議論する。次回以降、これらに関する事例のヒアリングを行い、類型別に要因・課題を議論、対応の方向性についての議論を重ね、2024年内の取りまとめを目指す。座長には政策研究大学院大学政策研究科教授の小野太一氏が就任した(資料は、厚労省のホームページ)。
(2024年6月27日美容医療の適切な実施に関する検討会資料)
 保険診療では、指導・監査や適時調査があるが、自由診療である美容医療は対象外。自由診療も保健所による指導監督の対象だが、保健所からは「多様な医療行為に対して医事関係法令等がどのように適用されるべきかが明確でない、法令の遵守状況を判断する証拠が少ない」などの意見があるという。
 取りまとめは、問題事例をある程度類型化して、類型ごとに対策を講じていく形が想定されるが、何らかの法的な規制を打ち出すまで至るか否かが一つの注目点だ。「逸脱する人を、厚労省も含めて国がどのように取り締まるのかといった議論をしっかりしなければ、美容医療の適切な発展はない」(日医の宮川氏)。
 会議の構成員には日本美容外科学会 (JSAS)理事長の鎌倉達郎氏、日本美容外科学会(JSAPS)理事長の武田啓氏、日本美容医療協会前理事長の青木律氏(グリーンウッドスキンクリニック立川院長)が名を連ねる。他の構成員からも異口同音に指摘されたが、まさに悪貨が良貨を駆逐しないよう、立案した対策を学会の会員以外などにいかに周知・啓発するかという課題も大きい。オブザーバーとして出席した消費者庁からは「アウトサイダーへのカバー率、対抗力を皆で力を合わせて作り上げていくかが課題ではないか」とのアドバイスがあった。
 なお、美容医療に進む若手医師が多い現状、ひいては医師の診療科偏在の問題は本検討会のスコープ外だ。また美容医療を行う医療機関の経営主体は、個人や医療法人のほか、一般社団法人などがあるが、ガバナンスの問題までは踏み込まない予定だ。
診療所の「美容外科」医師、約15年で3倍以上
 第1回会議は、厚労省が美容医療の現状に関する資料を提示、日本美容医療協会が「公開オンライン相談室に寄せられた相談」を紹介、その後、本検討会のスコープをはじめ、美容医療に関するディスカッションという形で展開した。
 2008年から2022年までの間に、診療所において主に「美容外科」に従事する医師は3倍以上に、「形成外科」の従事医師は約2倍にそれぞれ増加。中でも20代、30代の医師数の占める割合が増えている。美容外科を標榜する診療所も2008年は983施設から、2020年は1404施設へと1.4倍に増加。
(2024年6月27日美容医療の適切な実施に関する検討会資料)
 美容医療の中で多いのは、外科的手技による施術では「眼瞼形成」、非外科的手技では「脱毛」「ボツリヌス菌毒素注入」「セルライト治療」などが続く。
 美容医療の増加に伴いPIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)に寄せられた相談も、右肩上がりだ。契約や料金に関するもののほか、「アンチエイジング点滴で痒み、全身の発疹が出た」「ボトックス注射で目の腫れと頭痛がでて、別の医師から完治まで3カ月と言われた」などの皮膚障害のほか、熱傷、消化器障害などの「危害」が報告されている。
(2024年6月27日美容医療の適切な実施に関する検討会資料)
何が「医行為」にあたるかも議論のスコープ
 ディスカッションは、「医行為」をめぐる議論から始まった。青木氏は本検討会のスコープとなる「医行為」が議論されれば、エステサロンなどで無資格者が「医行為」をやってはいけないという議論になると指摘した。「医行為がどのような範囲を指すのかについて、ある程度、基本的な議論がなされればいい」(青木氏)。宮川氏も「医行為」にあたるかどうか、その最初の段階を定めないと「空虚な議論になる」と述べた。
 新宿区保健所主査の宮沢裕昭氏からは、「看護師が『診療の補助』の範囲で、医師の指示があれば看護師が何をやってもいいと考えて診療している医師もいる。さらに拡大解釈をして、医師がそこにいさえすれば、指示が特段なくても看護師の見立てで医行為を行ったりする事例もあると聞いている」といった声が上がった。
 厚労省事務局は、「医行為かどうかによって、適用されるルールが変わってくる。医行為であれば、当然医師法等の対象になるが、そこが曖昧だったり、ある意味、恣意的に解釈されると、違法的な行為につながっていくので、この点は検討会で議論していく」と答えた。
「GLP-1ダイエット」、オンライン診療で普及か
 個別の課題として上がった一つが「GLP-1ダイエット」。「最近少し増えているのが、オンライン診療を利用して美容医療をやりたいという相談。恐らくGLP-1の処方を考えているのではないか。今後こういう形態が増えてしまうと市場に出回るGLP-1が減少するなど、(保険診療で)本当に必要な方に行き届かなくなってしまう」(宮沢氏)などの指摘があった。
 自由診療が保険診療を圧迫する懸念は、別の視点からも挙がった。「美容医療でトラブルが生じた場合、保険診療で診ることになれば、保険財政も食ってしまう。本来なら自由診療の中で対応すべきだが、当たり前のことができていない」(宮川氏)。
SNSで国民の情報入手先も多様化、難しさも
 さらに医療提供側だけではなく、安易に美容医療に手を出さないように、国民のリテラシーを高める必要性も指摘された。「良質な美容医療が存在する。それ以外のところには決して手を出さない。ちゃんと説明を受けて美容医療を受けるといったリテラシーを高めていくことが非常に重要。国民の側にも良質な情報を届けてもらいたい」(宮川氏)などの意見だ。
 美容・医療ジャーナリストの海野由利子氏は、SNSが普及してきたことで、それまでメディア等で紹介されることがなかった診療所などが同時に広報できるようになり、「技術と経験のない先生方が若い患者を集めて、いろいろなことが起きている」と述べた。情報の入手先が多様化している故に適切な情報を届ける難しさがあるとの指摘だ