皮膚欠損創の治り方詳細
■毛孔、汗管(=皮膚付属器官)が残っていればそこから皮膚が再生。
表皮欠損創の場合、真皮さえ生きていれば表皮は再生できるし、真皮が死んでしまえば表皮は再生できないということになる。極めて単純な理論である。
さて、この真皮であるが、これは非常に丈夫な組織である。血流が豊富なためだが、滅多なことでは死なず、感染にも非常に強い(少々ばい菌がついたって大丈夫、ってことですね)。
しかし、この真皮の唯一の弱点が乾燥なのである。乾燥させると真皮は、あれよあれよという間に死んでしまい、真っ黒い痂皮(カサブタ)になる。つまり痂皮は死んでしまった表皮と真皮のミイラなのである。
■皮膚付属器が残っていなければ、肉芽が創面を覆い、その後、肉芽面に周囲から皮膚が遊走・増殖して再生。肉芽自体も収縮し、創が小さくなる。
この時、創面を乾燥させると肉芽が死んでしまうし、仮に肉芽が覆ったとしてもその表面が乾いていては表皮細胞は移動できない。つまり、このような傷を乾燥させるのは表皮細胞にとって、水も食べ物もなしに砂漠を歩かせるようなものである。
創傷治癒とは組織培養だ
培地 ⇒ 傷表面 培養液 ⇒ 滲出液 |
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↓ 5日後 | 培養には培養液が必要 |
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培養液がないと |
傷が治るためには、培養液が必要
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創面は乾かしてはいけない。
創面濡れていないと治らない。
傷のジュクジュクは何か?
細胞成長因子(Growth Factor, サイトカイン)
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さまざまな細胞が産生している
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種々の細胞の分裂を促進し、活性化する。
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最強の組織培養液!
実はこの「ジクジク」は化膿しているのでも、ばい菌が入ったものでもない。これは傷を治そうとして体が頑張っている結果なのだ。
「ジクジク」した状態というのは、傷口を治す細胞にとって最も働きやすい状態ということになる。というか、傷口に集まってきた細胞が、自分たちが最も働きやすい環境を作るために、いろんな物を分泌している、という風にも考えることができる。
湿潤療法の意味
閉鎖すれば細胞培養が進み
創はすぐに治る
傷が治るには成長因子が重要である。成長因子は主に、血小板とマクロファージが産生する蛋白質で、血小板に作用する成長因子、上皮細胞に作用する成長因子、血管新性に作用する成長因子・・・というようにターゲットとなる細胞ごとに成長因子がある。 低濃度の成長因子はターゲット細胞の遊走に作用し、高濃度の成長因子はその細胞の増殖を促す。 つまり、最初は成長因子は分泌されたばかりで低濃度なので、これがターゲット細胞の引き金を引き、次第に濃度が高くなると遊走先でそれらの細胞が増殖する。 この「低濃度から高濃度へ」という変化のためには、創が密封されていたほうが有利である。産生される成長因子がどんどん外に流れ出るようでは、いくら待っても「高濃度」にはならず、細胞は遊離するものの増殖への引き金が引かれないことになるからだ。 要するに、閉鎖された環境でこそ、コラーゲン産生も、上皮化も、血管新生もうまく進むのである。そして、ターゲットとなる細胞にとっても、体温により近い温度のほうが遊走にも増殖にも有利なことは常識的にもわかるだろうし、この温度保持が創傷被覆材による閉鎖でもたらされる。