新しい傷の処置
傷の処置は、特別な医療用材料を使用しなくても、必要十分な対応が可能です。
1:傷は消毒しない。
2:傷には、直接ガーゼを当てない(被覆材の上からはOK)。
3:傷はすぐに水道水で洗う(できる限り異物を除去する)。
4:絆創膏の使用は閉鎖性のもののみとする(傷を乾燥させない)。
5:傷は食品用ラップで覆う(ワセリンを塗ってもよい)か、医療用被覆材(最近は薬局でも手に入る)ですぐに覆う(この上からガーゼや保護材を覆うことはよい)。
6:傷の処置の準備として、ビタミンC誘導体ジェルを塗布する(市販のドクターズコスメで燐酸アスコルビン酸Naが含まれているもの)。ビタミンC誘導体には、線維芽細胞の働きを高め傷の治癒を促進し色素沈着を抑制する効果があります。驚くほどの治療効果が得られる場合もあります。
7:出血は単純に圧迫。
8:刺創、深い切創、異物の混入、組織の大きな挫滅があれば、すみやかに専門医療機関を受診する。
9:傷にクリームは絶対使用しない。クリームは界面活性剤であり、細胞障害性があるため傷に塗ってはいけない。
10:原則、翌日からシャワー、入浴を許可。創面を濡らしても問題はない。
11:他人の傷を処置するときは必ず、感染防止のためディスポーザブルの手袋(清潔なものでなくてよい)をつけて行う。素手で他人の傷のケアを行ってはいけない。
違和感を覚える方もあるようですが、以上が医学的に新しい傷のケアです。最近では、創傷メカニズムの研究も進み、創傷治癒理論に基づいた適切な創傷被覆材を使用すれば、創傷の治癒期間が飛躍的に短縮されます。
原則として行ってはいけない処置
傷への消毒
イソジン、ヒビテン、オキシフルなどの消毒薬も禁忌。傷の治療を遅らせるだけでなく、感染のリスクも増加し、激しい痛みを引き起こす。常備する必要はない
傷へガーゼを直接当てる
傷を乾燥させる処置であり行うべきではない
傷へ直接クリームを塗る
クリーム基材には界面活性剤が含まれていて刺激性があり使用すべきではない。キズドライなどクリーム以外の製品でも傷を乾燥させたり刺激を与えたりするような薬剤は使用すべきではない
現場でできる傷の応急処置
●ケア材料
1:白色ワセリン、2:食品用ラップ、3:ガーゼ(無滅菌のものでよい)、4:舌圧子、5:ディスポーザブル手袋、6:固定用テープ、7:ビタミンC誘導体含有のジェル(薬局でドクターズコスメの製品にある。写真は代表的な「reversalプラスACプラスジェル」)
●注意点
・現場では水道水で洗浄すれば、清潔にこだわる必要はない
・創面に消毒を行っても感染が防げるわけではない。
●処置の実際
1:水道水での傷の洗浄(異物がしっかり除去できるまで行う)
2:食品用ラップを傷の大きさに合わせて切り取る
3:ラップに白色ワセリンをつける(この場合少量でよい)
4:傷をしっかりと、ワセリンがついたラップで覆う
5:ラップを保護する目的でガーゼを当てる
医療機関での傷の処置
●ケア材料
左から1:デュオアクティブET、2:バイオクルーシブ、3:アルギン酸塩被覆材、4:コムフィールアルカスドレッシング
●処置の実際
1:傷の水道水での洗浄(医療機関でも精製水や生理食塩水での洗浄は不要)
2:出血している創面はアルギン酸塩被覆材で傷を覆う
3:フイルムドレッシング材のバイオクルーシブ
4:アルギン酸塩被覆材の上からフイルムドレッシング材を張る
5:バイオクルーシブの上からガーゼを当てる(処置用ガーゼはすべて清潔なガーゼでなくてもよい)
医傷が治癒する仕組み
傷の治癒する仕組みを簡単に解説しましょう。
浅い皮膚欠損創は、露出した真皮を表皮細胞が覆うことで傷は治癒します。このとき、表皮細胞は、毛孔から移動・分裂して露出した真皮を覆います。また、周囲の表皮細胞からの移動・分裂もあり、毛孔が残存している浅い傷は、適切なケアを行えば数日で完全に治癒するケースがほとんどです。
深い皮膚欠損創(皮下脂肪組織や筋肉、骨に到達するもの)では、肉芽組織が出現して周囲の表皮細胞の移動・分裂が起こります。肉芽組織は収縮する性質があり、欠損創が少しずつ収縮して傷が閉鎖されていきます。
縫合創では、次の通りです。
1:創部の血小板が活性化され、凝集して止血が起こる。
2:白血球(好中球)が組織内へ浸潤。3:マクロファージが組織内へ浸潤。
4:表皮細胞が創面を覆う。
5:線維芽細胞がコラーゲンを産生。
6:毛細血管が増殖。
創面には、血小板をはじめ多くの細胞が集まってきて、細胞成長因子を分泌して傷を治そうとします。創面がジュクジュクしているのは化膿しているのではなく、正常な創の治癒過程であることをしっかり認識すべきです。創面を閉鎖して湿潤環境を保てば、細胞成長因子がどんどん出現して、短期間での治癒が可能となります。
創面では、細胞培養と全く同じ現象が起こっています。培地は傷表面、培養液は滲出液です。培養には必ず培養液が必要です。培養液がないと細胞は死滅してしまいます。つまり、創面は決して乾かしてはいけません。ガーゼを直接創面へ当ててはいけないのです。
治療の実際
最先端の傷・傷痕の治療法(美容皮膚科的治療)
最先端の傷・傷痕の治療法をご紹介します。
自己多血小板血漿注入療法を応用した皮膚再生
自己多血小板血漿注入療法(Platelet Rich Plasma:PRP)とは、本来人間に備わった自然治癒システムを最大限に利用する再生医療のひとつです。
ヒアルロン酸注入法による傷痕の治療
「傷痕」として残ってしまったものに対する治療として、ヒアルロン酸注入により傷痕を目立たなくする方法があります。
LEDによる創傷治療
特殊な組み合わせを持つ光のシグナルを受けて、ミトコンドリアはスイッチが入ったようにエネルギー生産量を上げ、細胞はどんどん元気になり、肌が活性化して、代謝が上がり創傷治癒も促進されます。
フラクショナルレーザーシステムによる傷跡の治療
皮膚を剥離(はくり)せずに1c㎡あたり1000ミクロ単位以上の微細な照射をする事で、皮膚を入れ替えコラーゲンの再生をうながすという治療で、傷跡のケアが行える最先端のシステム。
VIVACE(ビバーチェ)による傷跡の治療
1㎝四方の機器先端部には36本の特殊構造の針が設置されており、LEDと同時に針先から高周波を照射することで真皮層内にコラーゲンとエラスティンが再生され、傷跡の治療に有効です。
グロスファクター(成長因子)による傷跡の治療
グロスファクター(細胞増殖因子)とは、私たちの体内でコラーゲンやエラスチンを生成する細胞をはじめ、全ての細胞増殖をコントロールする働きを持つタンパク質の一種。細胞を活性化させ、皮膚を若々しくする働きがあります。
ビタミンC誘導体による傷跡の治癒促進
ビタミンC誘導体には、線維芽細胞の働きを高め傷の治癒を促進し色素沈着を抑制する効果があります。驚くほどの治療効果が得られる場合もあります。